ネオンは赤い提灯ひとつで充分だ。

地震が起こってからたったの三日。それなのに自分の中にものすごい価値観の変容がおこっています。それについていくつか。

 これまで自分は「節電」とかあまり考えてこなかったんです。正直。寒さ暑さに弱くてクーラーがんがんつけてたし、自分の生活を快適にすることしか考えてなかった。でも原発の事故みて心が震えた。ここでメルトダウンしたら福島という県は壊滅する。住民にとって悲惨な事故になることはもちろんだけど、放射線汚染で豊かな農産物・魚類のイメージも底までおちて長い将来にわたり生産物が壊滅的な打撃をうける。素敵な酒蔵、温泉などの観光すべて駄目だろう。そしてそれは福島だけにとどまらない。近隣県、そして南下して東京や私の住む横浜なども例外なく汚染が進む。安心して子供が産めない。少しくらい雨にぬれても平気という気ままができない。風におびえる。暗い空を見上げる。人々は南へ南へと逃げる。

以前から原発には恐怖をもっていた。でもそれが節電とうまく結び付かなかった。今回の計画停電などでそれが自分の中で結びついた。「これだけ必要だけどこれだけ足りない。だから前もって節電する」という俺にとっては明確な理論。原発事故で(まあそれだけじゃないと思うけど)不足した電力は店の営業時間を縮小したり電飾をなくしたりする社会の協力と、ささやかながらの我々の意識で「想定外」にカバーすることができたのだ。だったらこれからもそれを続けて、原発はすべてやめよう!心からそう叫びたい。コンビニ深夜営業もたくさんの自動販売機も華やかなネオンもいらない。ネオンは酒場の赤い提灯一個で十分だ。なんだったらこれから一生計画停電してもかまわない。病院や信号や電車やどうしても必要なものに電気を最優先させて無駄なものを失くす努力を日本全体で始めたい。「危険はない」という言葉は嘘っぱちだって前からわかっていた。ただそれから目をそむけていただけだ。こんなに恐い思いをしたんだもの。それを未来に生かすことがしたい。そして福島原発はこれ以上の惨事をひきおこさないよう心から願う・・今の時点では。
この文章があとから見て空しいという状態にならないことだけを祈る。

それから仕事。東京郊外の横浜に中学校から住んでいた俺は、20歳のときから東京に通って働き、それが半ば当たり前だった。1時間から1時間半の通勤は電車で本が読めるとそれほど苦痛でなかった。でもそれは毎日が砂上の楼閣だったのだ。電車が全く機能しなくなるということ。そしてそれが今後もいつ起こるかわからないということ。そんなダメージで俺の労働意欲はみごとなまでにそがれてしまった。歩いていける範囲というのが自分にとって基本的な生きる範囲だという意識を全くなくしてしまっているのが現代人だろう。小さな子供を電車で1時間以上かかる名門学校に通わせたり・・特に俺の住んでる地域ではそういう人も多い。今回のことで「何がおこるかわからないのに」と愕然とすることになっただろう。のどもと過ぎれば忘れてしまうかもしれないが、今の気持ちを忘れずにいて、できたら少しずつ生活もかえていきたい。本は通勤電車ではなくくつろいだ空間で読めばいいのだ。夜はたき火をすればいいのだ。ろうそくの灯を愉しめばいいのだ。そんな感じ・・。日本人は勤勉だというが今回のことは相当都会で働く人の勤労意欲をそいでいるだろう。そしてそれはわがままでないと信じたい。恐ろしいまでの満員電車や毎日どこかしらでおこる人身事故や。「なんかおかしいな」という違和感がこの3日ではっきりしてしまったはずだ。営業時間を短縮したり 生産もできなかったり、物流事故にさまたげられて商売ができなかったり、それで立ち行かなくなっていく会社もたくさんでてくることだろう。失業者はまたまたふえるだろう。本屋なんてこんな状態が続けば立ち行かなくなるさいたるものではないだろうか・・悲しいけど・・・。

今まわりの店からいろいろなものが消えている。農地、漁場 工場 そして道路や鉄道・・すべてが壊滅的な打撃をうけたのだから。我々を支えてくれているものはひとつひとつが人の手で作られひとりひとりが疲れる運転をして重い思いをしてここまで運んできてくださっていたのだということも全くもうわからなくなっていた。自分の手でつくりあげて消費してるものなんて何ひとつないのだ。大好きな本の紙にしても酒の一滴にしても。「店にいけばそこにある」それは当たり前ではないのだ。そしてもしかしたらこれからどんどんそういう時代になるかもしれないのだ。そう考える。それも自分にとっては大きな転換点だ。

どうしたらいいかわからないけど、少しづつ考えていくこと。そしてひとりでも多くの命が救われ東北が復興することを祈ること。それしか今はできないけど、そうしながら進んでいきたい。この数日酒はまずい。またうまい酒がのめるよう。本を読みながら呑気に。そんなことも祈ってます。それは自分の心の問題かもしれません。

最後になりますが、日夜とわず過酷な労働を強いられている病院関係の方々、自衛隊の皆さま、被災地にいる自治体の皆さまに深い感謝と尊敬をささげいつになく真面目なこのブログを終わります・・