読んだ本 6月一回め

 
あまりにもブログをほったらかしているので読書記録として使うことにした。月々管理費も払っていることだしもったいないしみっともないではないか。一昨日夜中に首尾よくかけたので。続けばいいなー

気高き昼寝 (講談社文庫)

気高き昼寝 天野作市
講談社文庫
発掘本(ベッド脇)

 元敏腕編集者であった本書の作者は今は重いうつ病であるという。物語の主人公もうつ病。そしてもう一人の主人公もうつ病。日雇いの仕事で生計をたてながら都会の片隅に生き底辺で仕事をしている。日雇いの仕事の続け方がリアルだ。西村賢太の「苦役列車」の中の日雇いは肉体労働者だったがこの本では例えばティッシュ配りである。西村の本では「頑張れば一日一万円かせげる」とあるが本書の日雇いではそのような稼ぎは無理だと思う。自分がそういう場所に身をおいてきたからわかるのだ。50前後でうつ病の主人公には肉体労働はできないに違いない。本書と比べれば苦役列車の19歳の中卒の日雇いの男はきらきらと光輝いているようにも思える。本当に重い文章が続く。
 しかしストーリーは一転、舞台はタイに。もうひとりの主人公の過去があかされていく。それは精力的で機転がきき正義感溢れた男の話だ。うつ病どころかたくさんの人間とかかわりあい、陽気なタイ人の部下達に慕われ、時にははったりをかまし、恋をし、リゾート地にもいく。タイの風土もふんだんに書かれ読者はその描写を愉しみながら主人公が次第に奈落につきおとされていくさまを読むことになる。人生にはいたるところにワナがあり、精力的な男がうつ病に殺されていくなんてことはまあありきたりなことでもある。そういう意味でこの本の主人公にある程度共感できる読者は自分の身にひきつけて読む。ひきこまれていくほどに自分もうつという世界にどっぷりつかりそうになる。
 そしてラストまで物語はなだれこんでいく。どこからが表でどこからが裏なのか最後の最後まで読者はわからない。読み終えたあとこの物語を好きになった読者はもう一度最初からある「線」をたどって読むことになるだろう。上質の推理小説の読了後熱心な読者はそのような読みなおしをする。そういう意味で本書はなかなかのミステリでもある。
 本書は読者を選ぶだろう。底辺をある程度味わったものには本書は身によりそうものであるような気がする。私はこの本をベッド脇でみつけたのである。いつ買ったのかも覚えていないし読みかけて放り出してあった。そのころは自分はこの本と友人になれなかったのだなと私は思った。本とつきあうのは本当に人間とつきあうのに似ている。

本書の酒傾向

主人公がうつなだけにほとんど酒をのまない日常。しかしタイの日々のあるシーンでは酒が重要な役割を。タイのクラブで現地支社に赴任している日本のサラリーマン二人が悪酔い。主人公達にからんである決定的な事件がおこってしまう。ここでは酒は悪者。海外赴任の男たち(特にえらい人たち)は自分の立場が不満でしばしば悪い酒の呑み方をし、弱い立場のものにからみまくるという。酒がこういう小道具に使われるのは本当に気分が悪い。北米のエンタメなどでも最近酒が悪者になっているケースが多いような気がする。ハードボイルドで小粋なアイテムとして使われていたのも今は昔で、全く酒をのまなかったり禁酒している探偵も多いのである。酔っぱらっているのが悪になっている傾向は寂しいことだ。