阿呆!阿呆!阿呆!

「本と酒と俺」のシール問題について触れたい。それは、「出来た!出来た!」とうかれていた1週間すぎのこと。某出版社で編集者をしている弟からメールがきた。「力作、青春18きっぷの旅の全貌がようやくわかった・・」と最初はほめてくれている。うれしく読んでいた俺の手がとまった。続くメールに「阿房が阿呆になってるのはわざと?」え・・阿呆・・阿房・・なんかそういえばひっかかってたんだよな・・・・・誤植!内田百輭先生の「阿房列車」は「本と酒と俺」のメイン記事「青春じゃない!カップ酒まみれ各駅馬鹿旅」において重要な役割を果たしている本だ。「阿房列車」の言葉は何か所にもでてくる。胸がどんどん高鳴ってくるが仕事中で手元に本もなかったので確認のしようがない。弟のメールはその件についてはあっさり終わっており俺は「何でもない!」と社員食堂で思いこもうとした。「一か所くらいだろう・・だったらしょうがない。見過ごしてもらおう」
 そして帰宅。本をわしづかみにして頁をめくる。阿呆、阿呆、阿呆・・すべて間違っている!書名がでてる10か所すべて間違っている!あの名作を!しかも俺はほんの数日前バイト先の店長に「読んでください!」と本をわたしていた。本のプロに!
 目の前が真っ暗になる。これは・・何が「本と酒と俺」だよ!「本と酒と阿呆な俺」だよ!直すしかない!間抜けすぎる!どうしたらいいんだ!
 半ば泣きながら、デザイナーのNさんに電話をする。電話のむこうで大笑いするNさん。「あのさあ・・あの・・正しい書名のシールはりたいんだよね。そういうの・・つくれたりする・・?無理かな・・」といつもながらの無理ぶりをする俺。こういうの本が完成された時点で終わったはずだった。「本当にありがとう!」と感謝をこめていったん仕上げたはずの俺達の関係・・なのに・・またもの最低な無理ぶり・・。Nさんは「OK大丈夫だよ。字体あわせなくちゃいけないから、どことどこが間違ってるのかメール送ってね!」と明るくいってくれた。シールシートも仕事場にいく途中で買ってくれるという。電話したのが土曜日。「あの・・できたら今度の金曜日30冊もってく予定があるんだ。それまでに・・もし・・できたら・・」「うーん多分、大丈夫と思うよ」
 いつもいつもこんな事ばっかりNさんに言ってた俺だった。半ばできあがっていたアンケートをレイアウト変えたいっていったり「とりあえず50頁くらいにおさめようよ」といわれても「まだ原稿あるんだよね」といったり・・ごめんね。Nさん。これが最後と信じたいよ・・。
 週明けすぐに「出来たよ!」とNさんからメールもらって、酒びんかかえて事務所にむかった。Nさんのパートナー、イラストレーターのFさんにもちょこちょこイラスト描いてもらってたのでギャラ替わりにもっていったんだった。俺を待っていたのはシールシートいっぱいに溢れた「阿房」の文字。「房」だけもある。そしてNさんの手ですべての字のわきにきっちりカッタ―がひかれていた。実はこの作業が不安だった。まっすぐ線がひけない、折れない俺だ・・。本当にありがとう・・Nさん。
 「さーて。貼り方の練習やるよーいいねー君にまかしとくとどんな貼り方するかわかんないからねー」とにこやかなNさんの目が笑っていないような・・カッタ―やピンセットをもちい、とても細かい作業がはじまった。「今あけないでください!ご自宅で呑んでください!ギャラですから!」と懇願する俺を無視して酒をその場であけたFさんも加わってくれた。30冊シールはった・・俺達のかたわらにはコップ酒。呑みながらやった。Fさんが笑っている。「ほら!手でやっちゃだめだよ!」とときたまNさんのつっこみが入る。さらに笑うFさん。いつのまにかギャラの酒瓶はカラになっていた。

 ところで地方小出版さんという取次さんから驚きの注文がはいった。100冊・・都内の主要書店にまいてくださるという・・ありがたい話だ・・俺のシールまみれの本を・・来週までに100冊シール貼り・・俺はやるぜ!これから!少し曲がるかも・・

 これからリトルプレスをつくる皆さまへ。
校正は大切です。できれば自分ではなく第3者にきちんとやってもらいましょうね。