11月6日 初めての納品

めっきり寒くなってきました。ベランダの盆栽がとうとうみんな枯れてしまった。もう植物育てにトライするのはやめます・・。「本と酒と俺」営業物語の続きを書こう。


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前回までのあらすじ→1年ごしの作業の末雑誌完成!にうかれた田中は池袋で呑んだくれ全てを失ってしまった・・なんとか自宅まで帰りついたが、家族にそしられ(というか全員寝ていたが)辛い夜をすごすのだった・・。(詳しくは前日のブログをごらんください・・)

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どんな二日酔いもんにも朝は来る。その日の二日酔いは中程度だった。目がさめて呆然としながら乱れきったリビングに座り「今日何をすべきか」を考える。リビングのテーブルには千円札がぽつんとおかれていた。そうだ!昨夜タクシーの金を払ってくれた夫に「明日!明日バッグをとりにいかなくちゃいけないけど、何もないんだよー金くれー」と泣きついていたのだった・・。この千円は武士の情け・・この情けを握って・・

まずバッグをとりにいかなくてはいけない。

電車に乗ることを考えるのすらいやだが、携帯 財布 そのほかいろいろがなければ明日仕事にもいけない!池袋の少し先のA駅まで横浜の自宅から1時間半・・また長い旅にでなくてはいけない・・どうせ長い旅にでるならもう少し楽しいこともしよう。そうだ

納品しよう。

俺はとある書店に電話をした。それはA駅にほどよく近い「清澄白河駅」近くにある古本と新刊洋書を扱う「しまぶっく」。以前勤めていた書店の先輩Wさん夫妻がついこないだ開いたスバラシイ本屋である。「本と酒と俺」がどんな本か全くわからないままに「置いて!」とつめよった俺にうなずいてくれた。そのうなずきを頼りに突然電話をする。
「あのー田中です」「おお」「あのーこないだいってた本できたんですけどもっていっていいですかー」「…あ、そうか。いいよ・・」(困惑ぎみ)「10冊でいいですか?今から行きます」二日酔いの割にてきぱき冊数まで勝手にきめる俺に「伝票はつくってきてね」と駄目だしするWさん。さすが書店業界30年(くらいだと思う)経験者。そうか・・伝票・・納品書・・インターネットでテンプレートを探しなんとかなんちゃって納品書をつくる。全くてをつけていなかった印刷所からの段ボールをあけ10冊だす。お前たち立派に勤めをはたしてくるんだぞ!

というわけで俺は旅だった。昨日を空しく回想しながらまずA駅に行きぺこぺこ頭をさげて(拾ってくださった方本当にありがとう!あのーヒステリックグラマー柄の小さなバッグですよーもしこのブログをみてくださっていたらビールおごりますよーなんでもしますー)バッグと感動の再会を果たし、清澄白河駅へ。Wさん・・俺がAブックセンターに入社したとき、朝礼で自分が企画した「青の時代」のフェアのことを発表していた。末長蒼生さんが同名の新刊をだしたばっかりで、その流れをくむ本がずらりと並ぶ素晴らしいフェアで俺はとたんにWさんの力にノックアウトされてしまったのだった。へっぽこ編集者から転職したばかりの俺に棚を編集する力のあるAブックセンターの先輩たちの力は眩しいばかりだったが中でもWさんには魔法的なパワーがあった。書籍の中でも地味な人文書の棚をきらきらと輝かせ、哲学や社会学などに興味がない読者までをも引き寄せ買わせてしまうその力はWマジックと呼ばれたものだった。
そして酒・・ものすごい酒呑みだった・・今だにWさんのようにつやつやした声で「すいませーん。おかわりー」と酒場で叫ぶ人を俺はしらない。しかもほぼエンドレスで叫ぶのだ。素敵すぎる酒呑み・・躊躇ないそのコールが繰り返される酒場の夜を何度すごしたことだろう。
最近は全く一緒呑みはごぶさただけど、本屋大将のWさんの店に本を置いてもらえるなんて光栄すぎる・・俺は二日酔いも忘れ店へと急ぐ。清澄白河駅を出て「深川下町資料館」を左手にみつつ商店街をまっすぐ歩いて5分くらいのところに「しまぶっく」はある。パートナーのRさんがにこにこと迎えてくれた。Rさんも酒呑みなのだ。しまぶっくを開いて以来、ものすごい忙しさで その疲れをとるため毎日飲み歩いているという夫妻。うらやましすぎる・・。
しまぶっくはWさん夫妻の編集力にみちている。ひとつの本のまわりに同じ流れに導かれた本がよりそっている。ひとつひとつの小さな街が店のあちこちにできている。それは無粋な「分類版」などで区別されていない。自然に川で泳ぎ海に出て島に流れ着く。幸せな本屋体験が「しまぶっく」にはあるのです。そして!その流れに俺の本も仲間入りさせてもらえました。おお!栄光の面だし!RさんがPOPも書いてくれました。納品1件目がこんな本屋さんで俺の本たちも幸せだ。頑張って素敵な人に買われるんだよ!

しまぶっく
東京都江東区三好2-13-2、月曜日定休 03−6240−3262