活字を拾う夢と「風太くん」

ヨダレ弟のパートナー、イラストレーター・美術家のマツバラリエさんが出展するという事もあり「活版を巡る冒険展」にいってきました。(CNTEXT−S 6月13日日曜日19時まで)ひなびた感じが懐かしい商店街「パールセンター」をずいっと進み、かまぼこ屋さんをまがったところ。ギャラリーのCNTEXT−Sは小さな木の民家を改造した温かみのあるスペースでした。出展者は石上照美さん(陶芸家)大友克洋さん(ご存じ漫画家)坂崎千春さん(スイカのペンギンでおなじみ イラストレーター 絵本作家)高橋和枝さん(イラストレーター)中島たい子さん(作家)そしてマツバラリエちゃん。リエちゃんはすごい美人でヨダレ弟が我が家につれてきたときみんなで息をのんだものだった。そのリエちゃんが会場(なんか縁側のある板張りのお茶の間って感じでほとんど外に開かれていてそれがすごいいい)でお茶をいれお客様と話していた。その他にも美女が数人いた。「大友克洋!」と興奮して一緒にきたムスコ、絵が描くのが大好きなムスメはちょっと緊張している。俺たちはお茶の間をぐるりとヒトめぐりしました。

6人の作家が2点ずつ出品。大きさも文庫本を開いたサイズに統一というシンプルさがとてもいい。みんな活版印刷という魅力的だがへたをすると消えてしまいそうな手法をつかって冒険しながら何かを表現している。きりりとしている5人の冒険者たちだが、彼らは愛らしい活版くんのよさをけさないようにすごく繊細に探検しているのである。リエちゃんは卵のパックに使われているあのごわごわした紙を使って活版技術でリトグラフ(?ごめんこの表現でいいんだよね)を作成している。弟がちょうど実家にきてたときリエちゃんから電話があり「紙に色がのらない」と苦悩してた様子だった。あの苦労がこの冒険だったのか・・確かにこの紙は冒険だ。でも人間の手がひとつひとつの文字にかけられている活版くんとこの素朴な厚紙をあわせたい気持ちはとてもわかった。湿地のようなところに黒犬がぽつんといる風景がとてもいい。30枚しかすれなかったその絵を一枚おみやげにかいました。

そして興奮したのは中島たい子さんです。申し訳ないんだけど持っている本はまだ数冊で、でも文芸雑誌でその小説を読むたび「おもしろい人だな。好きだな」って思ってた。その中島さんがどういう出展をするのかとても興味があった。だって他作家はビジュアルで一流のひとばかり。そんな中でどうするのか。なんと中島さんは朝から印刷所にはいり、ひとつひとつ活字をひろいながらその場でライブエッセイをつくっていた!行間のことを印刷用語で「インテル」というそうだが、必死になって活字をひろいながら「インテルはいってない!」といったり、臨場感がばしばし伝わってくる。文庫本見開きつくるのに朝9時から夕方5時までかかったそうだ。活版の活字がずらりと並ぶ壁面の壮観さは俺はわけあって知ってるのだった。そのなかで自分の言葉を「ええと・・」っていいながら拾っていく。そしてなおかつお話をつむいでいく・・それって大変だけどすごく興奮する作業だったんじゃないだろうか。俺もやってみたい!そんなことを考え付いた中島さんはすごい!そして額縁に収められたまだインテルがない活字たちはすごくきれいだった。「これいいなあ。中島さんいいよね」っていってたら何とそばに中島さんがいた!りえちゃんが紹介してくれて「ああ!」って喜ぶ。美女のひとりが中島さんでした。印刷所の様子を収められたアルバムをめくりながら中島さんはその時の大変さ、喜びを丁寧に説明してくださいました。ものを書く人はやっぱり文句なく活字が好きで、特にこうやってみてみると、わずかに手触りに凹凸がある活版活字が大好きなのである。中島さんが印刷した紙に触らせてくれ「いい!やっぱり!」ときゃーきゃーしてしまった。とてもいい時間をすごせました。ただ活版はもう後継者もあまりおらず絶滅動物めいておりとても心配だ。やはりきいてみるとオフセットより断然印刷代が高い。作家の方で自分のためまたまわりの関係者のためだけに「限定版」をつくる時、活版印刷を使う方がいるそうだ。あと詩集などにも需要があるらしい。詩集・・そうやっぱり厳選された言葉をあらわすために人の手で拾われた活字は、もうもはや美術の領域に達しているのでした。

そんなすてき時間をすごした俺だったが、来る前に阿佐ヶ谷駅のホームからみた変な看板も頭からきえていなかった。「たち呑みや風太くん」・・そこには立ち上がったレッサーパンダらしきものが酒を飲んでいる絵があり、横にきっぱりと「直立不動でお呑みください!」と宣言されていた。駅から2分ということで、俺はいやがるこどもたちを連れ、その方向を探索した。そしてみつけた!3時だったがもう営業していた。恵比寿ビールの提灯がたくさん飾られていたが、その提灯のエビスという文字にすべてマジックで×がつけられていて、その横にとてもひどい字で「サッポロ」とかかれていた・・これは・・いったい。「エビス売ってないなら、提灯外せばいいじゃん」こどもたちがつぶやく。いったい何があったのか憎しみすら感じるこのパフォーマンス。今日は残念ながら入らなかったが「風太くん」・・とても気になるので今度入ってみたい。活版組の古い文庫を読みながらサワーとかのんでみたいものだ。昼間から。

立呑風太くん

食べログ 立呑風太くん