酔っぱらいフィンランド

わたしのマトカ (幻冬舎文庫)


最近自分が何をしたいのかわからなくなりもんもんとしている。

昨年夏ごろから「本と酒と俺」というリトルプレスをだそうとおもいたち牛歩の歩みですすめているのだったけどいざ原稿が結構集まりもうできるかもという段階になると「このままでだしていいのか」とか「おもしろくないんじゃないか」とかぐずぐずとすすまない。雑誌の体裁を整えるためには、細かいつめがいろいろ必要だしまだまだ発行には日が必要だけどあんなにもえていた「出すぞ!」という気持ちが盛り上がらない毎日。友達に誘われてツイッター始めたり何かそういうことしてるんだが、ツイッターでつぶやいてみたところで別に大きな世界が広がるわけでもなく、久しぶりの友人がみつけてきてくれてうれしくはあるが今日の夕飯などをつぶやくより何か他に書きたいことがあったかもしれない・・そもそも「本と酒と俺」とだしたいと思ったのは、本の中の酒(登場する酒や作家の酒の正体など)をいろいろ書き散らかしたいというのが本質動機だったので、やはりもっとそこにたちかえらなくては。とめずらしく真面目に考える。そいでそうだよこの本だよ。とブログにたちかえる俺だ。この気持ちを「本と酒と俺」に込めたい。

「わたしのマトカ」(幻冬舎文庫
かもめ食堂」は食べ物がおいしそうで、マリメッコのデザインがかわいくて女子心をくすぐる(俺でさえも)すてきな映画だったがその出演者片桐はいりさんが書いたエッセイだ。映画「かもめ食堂」は宝くじにあたった日本人女性がフィンランドにわたり食堂をひらく物語でオールフィンランドロケでつくられたのだが、そのロケの日々を片桐さんはていねいに独自の視点で書いている。マッサージに挑戦したり、農場ステイをしたり奇妙なクラブで酒を呑むなんてエピソードもあるし酒率はまあまあの内容ですが、とにかくフィンランド人・・酒が好きらしい。というか俺はそのことを知っている。フィンランドにいったことがないのになぜかよく知ってるのだ。

本当にチケットを手配してくれた旅行代理店さんには感謝しているのだが、「安いのがとれたから」という理由でフィンランド航空でロンドンにいったことがあった。かなりレアなのではないだろうか・・フィンエアでロンドン・・。俺はその時フィンランドには何の知識もなかった。ただ安くとれたという理由だけでフィンエアにのった。そしてフィンエアは半端なかった。酒が大事にされている加減が。ちんけな世の中になった今はどうだかわからない。しかし俺がフィンエアにのった15年前は、フィンエアの食事では食前酒・食中酒・食後酒がていねいにでた(エコノミーでですよ。もちろん。全部ただですよ。もちろん)まずビールやジントニックとかをいっぱい飲むと今度は食中には新たな酒としてワインがでた「赤にしますか?白にしますか?」といわれ選択した俺だが、そのとき驚いたことはまわりのフィンランド人が(フィンランド人乗車率が高かった)ほとんど全員「何いってんだよ。両方だよ」といって2本もらっていたことだった。俺の飛行機体験でそんなことは初めてだった。俺も2回目にはもちろんそうした。
スバラシイと思ったから。心から。
食事をしているとき隣のおじさん(もうかなり酔っぱらっていて楽しそうだった)が話かけてきた。「君は日本人なのに珍しいねえ」「?」「いやジントニックだよ。ジントニックばかり呑んでるじゃないか。日本人はほとんど水割りを呑むんだけど、君はすばらしいねえ。ジントニックは素敵なお酒だよね!」そんな風にほめられたのは初めてだったが、何かとてもうれしく自分が特別な日本人になった気がした。おじさんは東大で何かを教えてるたしかったがよくわからないが、酒好きということはわかったので、お互いアドレスを交換した。そしてますます道中ふたりで盛り上がって呑んだ。そして食事が終わったら、何種類かの何かラズベリーとかそういう果物やハーブみたいのが配されたリキュールがでた。おしゃれだが、フィンランド人はそれももちろん全種類呑み倒すみたいな感じでやっつけていた。この人たちっていったい。俺はそんな空気の中遠く欧州まで飲み続けた。本当にすばらしいフライト。そしてヘルシンキ空港についた!飛行機が無事着陸したとき多分ほぼ全員よっぱらいのフィンランド人たちはみんなで歓声をあげて割れんばかりに拍手をした。着陸して拍手。15年前であろうと田舎のプロペラ飛行機でもありえないことだ。俺はフィンランド人はすばらしいと確信した。ヘルシンキはトランジットだったがもうロンドンなんていきたくないほどだった。ここでおりたい。予想通りロンドンはつまらなく、俺にとってこの旅はフライトが一番のすばらしい思いでになった。どこかのアリタリアとは大違いである。「わたしのマトカ」を読んでいると背景には常にあの割れんばかりの拍手があった。フィンエアの酒度は今も健在だろうか。

あとはジム・ジャームッシュの何かのオムニバス映画で、フィンランドの酔っぱらいがでてきたことがある。大雪の中よろよろとお互いをささえあって歩く酔っぱらい3人組。雪の中彼らはどっと倒れる(陽気なまま。何かを叫びながら)俺は「しん」と静まりかえる映画館でうれしくて楽しくて大きな声で笑った。ああ、フィンランド人がいる、と思って。
誰も笑わず俺の笑い声は異様に響いた。あとで友人に恥ずかしかったと責められた。

「それにしても、昼間はおとなしく内気で無口な人たちがなぜ夜になりお酒を口にしたとたん酒瓶を割りグラスを放りだしてとぐろを巻くのだろう。しかも彼らが荒らして無法地帯のようになってしまったヘルシンキは、翌日、少なくとも週が明けるまでには、必ずもとの塵ひとつない、北欧デザイン最新国の首都の顔に戻っているのだ。誰がいつどうやって、あの町中に散らばる大量のガラス片をかたづけるのだろう。月曜の朝のヘルシンキときたら、お酒?なんですかそれ? みたいなとぼけ方なのだ」−「わたしのマトカ」より。

ヘルシンキに行きたい。週末にいって騒いで月曜のすましたフィンランド人をみてみたい。飛行機では酒瓶が割れることなく何よりだった。