悲しい記憶への旅 トール&アキごめんなさい

 

グランドファーザーズ

食べログ グランドファーザーズ

 
 哀しく辛い二日酔いの一日でした。身体の辛さより失った記憶を探る辛さに身をさいなまれ・・昨日久しぶりの泥酔。道に何度も寝転がった俺。足が動かず膝からくずれおちる俺。それを支えるトールくんとアキちゃん。そしていつのまにかなぜかそこに夫と娘も加わっていた。マンションの前で4人が俺を囲むの図。そして俺は大地に寝ている。何だろう・・一昨日50になったというのに・・ひどすぎる。フラッシュバックする記憶の画面。ああ、もう消えてしまいたい・・。大好きなトールくんとアキちゃんに呑みに誘われてとてもうれしかったんだっけ。「山家」で呑んで「グランドファーザーズ」でバーボンを入れた。サウンドオブサイレンス(トールリクエスト)が店に流れ「おお!」と盛り上がって・・それから記憶がない・・何だろうか。いつもあの店でやられる。カウンターで吐いたこともあった。それなのに受け入れ続けてくれたあの店に自分は何か迷惑をかけただろうか。トールくんとアキちゃんは遠く横浜の田舎まで夜中送ってくれてあのあと帰れたのだろうか。俺が「泊まっていけ」とゴーインに連れてきたのではなかったか・・

 1時までベッドで眠りつつも悶々として、しかしもうこれ以上眠れないと起き上がり・・寝ることで立ち向かうことから逃げていた俺・・勇気をもって確認開始。第一発見。床に「バッグ」。あった・・中を探る「財布」。あった・・「携帯」あった・・これだけでうれしくてくずれおちる俺。十年以上前、バッグまるごとなくしたことあったっけ・・1週間後にごみばこに捨てられてるの発見されたっけ・・。さらに「財布中身」確認・・あまり金がへってない・・ああ、トール&アキちゃんごめん。俺金迷惑かけた?・・どんよりとしながらコーヒーを入れる。そして汁ものをとるべくカップラーメンをつくる・・のろのろ。これまで何度こんな気持ちをかかえながら汁ものを食べたことだろう。なぜいつも切なくなるほどに汁ものを食べたくなるんだろう。そして大量の麦茶摂取・・しばらくじっとしてここで身体の声をきく俺。アルコール被害が激しい時はここでさらに恐ろしい吐き気にまみえることになるのだが、今日は大丈夫そうだ。そうなると今度は風呂だ。風呂掃除して第2の回復ツールを作る俺。温泉のもとは今日は「白骨温泉」だ。「消えてしまいたい」といいながら着実に復活への道を探っている俺。そして、泣きそうになりながらアキちゃんに電話。やさしく対応してくれるアキちゃん・・情けない。「金は払ったか」「店で暴れてないか」といつもながらの確認をする俺。この電話をおえた時点で「やるべきことはやった」。何回と重ねた悲しみの記憶への旅は今回も終わった。呆然となりながら「白骨の湯」に入りました。風呂の前に転がっていた「須賀敦子全集第2巻」を風呂の友にしました。須賀さんのイタリアはいつも静謐な美しさに満ちている。今日読んだのは「トリエステの坂道」のなかにはいっている「雨のなかを走る男たち」だ。悲しいイタリアの男トーニのことが書いてあった。いつも家族に迷惑をかけるちょっと知恵のたりない暴れ者のトーニ。でもまわりは完全に見捨てることもできず「ああ、トーニがあそこにいる」とみている。どこかにいってもふらっと帰ってくる。鍵をもらえず家族のアパートの前にうずくまるトーニの姿に酔い潰れた自分が重なる。俺を囲んでいたふたりの大好きな友達、夫、娘・・。迷惑をかける立場と迷惑をかけられる立場は年をとってくるとだいたい固定してくる。そしてかけられるしっかりした人はかける立場のどうしようもない人間にどこか興味をひかれる。須賀さんも書いていた。「その夜を境にして、トーニへの興味が私のなかでぶつぶつと醗酵しつづけた」「いちどでいいから、ゆっくりトーニを見たい、そんな思いが私のなかで濃さを増していった」気持ちが醗酵したり、濃さをましたり、まるで酒のような表現だと俺は風呂の中でぼんやり思う。須賀さんは酒で失敗したことがあっただろうか。
 
 せめて今日はいろいろご飯をつくろう。キャベツのトマトスープ、コンビーフごはん、点点の餃子、時じゃけも焼いた。学校から帰ってきた娘とキャベツのトマトスープをいっぱい飲んだ。二日酔いに最適だ。子供の健康にもいい。ナイススープだ。「ごめんね」といったら朝口をきいてくれなかった娘は「このスープおいしい」とぽつんといった。
須賀敦子全集 第2巻 (河出文庫)