浦沢直樹さんと山崎努さんの事について

フリースタイル 9 特集 1979 COMIC REVOLUTION

 こんなに長く本に関する仕事してて、(編集7年 本屋19年)今日やっと気が着いたんだけど、雑誌のおもしろさって、主にふたつある。ひとつは全く自分の知らないことを発見すること。もうひとつは自分が「本当にいい!」とひそかに(自分だけが知ってるって思ってるってこと)確信してたり、あるいは 対象がメジャーでも心から「いい!」と情熱的に思っていることが記事になった場合、それを「わかってくれてる」と喜びを持って読む事・・。そうなんだなあとつくづく思った。今日池袋のジュンク堂にいって、横浜の田舎ではかえないようなマイナー雑誌を買って読んでどれもおもしろくて、つくづくそう思ったんです。

「本と酒と俺」ってタイトルをつけたからには俺はこのブログでは、本の事を積極的に書きたいんだけど、まだ「yom yom」しかかけていない、毎日、他の本ももちろん読んでいるんだけど、おもしろくなくてかけない。書籍は本当に中身勝負だから、なかなか心底納得しないと書けない。でも雑誌は一部おもしろくなくても書きたくなる。それはなぜだろうと考えたとき、「ふたつの喜びを感じられたら書ける」そういう結論に達したんです。
 
 池袋のジュンクさんで買ったのは、「界遊003号」奇書特集と「フリースタイル」9月号とすいませんこれは横浜の田舎でも買えるんだけど 「BRUTUS 10/15号」プレステのトリセツ特集です。本当は全部きちんと読んでから、「yom yom」のときみたいな3冊まとめて長―いブログ書こうと思ったんだけど、3冊目の「フリースタイル」で巻頭が江口寿史さんと浦沢直樹さんの対談で、それがすごくおもしろくて、そしたら急に浦沢直樹さんの事かきたくなったので、今日はその事を書きます。
 
 浦沢さんは、多分家が近かったんだろうけど、前俺が勤めていてつぶれた本屋に時々きてくださっていて、俺は覚えてる限り3回レジを打った。レジのときって、きちんとバーコード読みこませたり、お金にも神経つかうしあまりお客様の顔みないでうつむいてたりするんだけど、とにかく覚えてるのがレジ打ちながらなんか変なオーラを感じ、はっと顔をあげたら3回とも浦沢さんだったという事だった。それは本当にすごいことで、いつもびっくりした。「あ、有名な浦沢さんだ」って顔をみるんじゃなくて、存在感が特になくレジにきているのに、近づいたときのオーラで思わず顔をみて、(いろいろ有名人はいらして下さったがそんな事は浦澤さんしかなかった)気がつく・・って本当にびっくりするんです。しかも3回ともばらばらな時期でいつもそうなんだ。近づかないまで気がつかない俺も俺だが。しかも俺はそのとき漫画文庫のだらしない棚の担当だったのだが、狭―い棚の中、「これは売れないけど、おもしろいから残しておこう」とひっそりと1冊さしにしている(書店員の中ではその行為は「ひっそりひいき」と呼ばれている。嘘)本を必ず買ってくださるのだ。それはもうぞっとするくらいで「あんな貧相な棚をよく真剣に眺めてくださる」と、びっくりしたあとはひれ伏す感じでまさに「ハッとしてグッとくる」(知らないだろー)瞬間でした。まあそこでアクションを起こす訳ではなく、はためでは淡々とレジ打ちをしたわけですが・・。ここまで書いて検索でこのへんな頁にたどり着いた浦沢さんのファンの方が「きー」ってなるような事を書きますが、特に俺は浦沢さんの熱心なファンでもなんでもないんです。とてもきれいな絵を書く人だなと思ってたけど。まあそれをこえることはなく。(本当にごめん)それなのに感じるオーラって真剣にすごいと思う。「好き好き!」って事で感じるものじゃないんですよね。これを読んで「オーラってなんだよ!ふざけたこといってんじゃないよ」と思う人がいるとは思いますが、それはなんとも説明できないから、この怪しげな言葉を使ってるわけであって、それ以上何もいえないんです。再びすまない。

 何でこんなこと書いてるかっていうと、最初にもどるけどフリースタイルの江口寿史さんと浦沢直樹さんの対談が本当におもしろかったからなんです。特に大友克洋さんの絵やスタイルをふたりがどのように読んで消化していったかという主テーマが。線やコマ割のひとつひとつを「こうなんだよね」「だから真似したらこうなったよ」「本当そうそう」と限りなく語り合ってるところが。俺も青春時代、人並みに大友克洋さんは好きだった。でも当たり前だが全くそんな目でみなかった。でもふたりが語り合ってるのを読んでると、そんなに熱心な読者でなかったに関わらずそのコマが「ぱっ」と浮かんでくる。「ハイウエイスター」を俺に貸してくれた(そして返してない)男子の顔も浮かんでくる。こんなにほとんど何も覚えていない俺なのに。つまり、大友さんのマンガにはそれほどの力があったということだし、ふたりのプロとしての情熱は本物だという事だ。そんな浦沢さんの内なるものがもしかしたらいい匂いのわきが(そんなのあるのかよ)のようにオーラとしてレジの俺を刺激したのかもしれない。世の中の不思議な事って結構そんな、情熱とか恨みとか強いものからうみだされるのかもしれない。
 
 それでなんでタイトルに山崎努さんがあるかってことなんですが、山崎さんも一時よくきてくださったんだけど、山崎さんは、浦澤さんと少し違って棚の前にたってるだけで「はっ」とオーラをレジまで伝えてくれる(笑)唯一のお客様だったってことです。
 オーラっていうかまあこれはわかりやすいんだけど、山崎さんみたいな棚の見かたする人を19年本屋やってたが、俺は知らない。がーっと顔を20センチくらいの近くまで棚に近づけて、こう体を全体にくねらせて例えていえば、大樹に上る大蛇みたいな動きで、上から下まで、左から右まで眺めていく。それを2時間でも3時間でも狭い店内で続ける。それは「何だろう?」って思うよね。しかも俺はこれはミーハーに本当に山崎さんって役者が好きだったから、最初は「どこの変なおやじだ?」って思ってて「はっ!」って山崎さんだということに気がつき、そのあとはひたすら「ああ、あんなところに面白い芝居が」ってぽーってみてた。幸せな時間だった。本当に山崎さんはカッコいいんです。

 別に有名人をみたって自慢話をしたかったわけじゃなくて、「フリースタイル」の浦沢さんの言葉を読んで、忘れてたあの不思議レジオーラをぱっと思い出した、ついでに山崎さんを眺めていた幸せをまた感じることができた、雑誌のいい記事にはそういう力があるってことをいいたかったんです。今日ジュンクさんで買った幸せな3冊についてはまた改めて整理して書きます。でもとてもおもしろかったので、私のしょうもない日記を読むまでもなく、みなさん「ゲーム」と「奇書」と「江口さん、浦沢さん、大友さん」が好きだったら買って損はないと思いますよ。ブルータスに関してはまるまるプレステ3の宣伝本って感じて「いくらソニーからむしりとったんだマガジンハウス」とは思いますが、でも商業としてエンタテイメントとしてすごくよくできてると思いますよ。プレステ3、すげー欲しくなった・・(また欲望が)また詳しく(っていうかyom yom風に)書きます。